つげ義春コレクション 近所の景色/無能の人 (ちくま文庫)
S**士
『無能の人』
つげさんの作品に前衛的要素をもとめるならこの作品は該当しない。ゆえに、熱烈なつげファンの中にはこの作品を嫌う人もいる。私は違う。つげさんの芸術路線も好きだがこういう枯れすすき路線も好きだ。色は違えども、どちらもつげカラーであり、どちらも傑作だと思っている。
グ**ジ
何度も読み返してしまうくらい面白かった
ねじ式、長八の宿、赤い花といった名作は中学時代に読んだことがあり、ずいぶん暗い漫画というイメージがありました。大人になって読み返してみると、その風情がいたく気に入り、以後の作品を読んでみようと思い立ちました。 無能の人は映画化もされましたが、ここに収められた作品は本当にユーモアもあって、面白かったです。他のレビュアーの方も書かれていますが、私も「探石行」に一番惹かれました。その前の「鳥師」も不思議な迫力があって好きです。 つげ氏の作品はどこか哲学的な部分があり、そこが他の作家とは違うところだと思います。石に囲まれた中で、石を売るという馬鹿馬鹿しさが面白いと同時に、この世の中を風刺しているようにも感じました。有名作品と比べると雰囲気が明るいので、むしろ最初にこの選集を読むのもおススメです。
S**I
貧乏が生む奇跡
映画にもなった表題作「無能の人」含む10篇を収録。多摩川の河原で水石を採取して売る、売れない漫画家を主人公にした「無能の人」。読んでいたら、ふと西村賢太氏の小説を思い出した。どことなく似ている気がする。例えば、町田康氏による西村作品の解説にこんな一文がある。「貧しい男女の悲惨で不幸な話を描き、読者に、疼痛のような、小便を我慢しているような悲しみを感じさせながら、同時にひどく愉快な気持ちにもさせる、という奇蹟」貧乏のどん底で、夫婦の仲は常に金に左右され、ついには河原で石を拾って売り出す男の姿は、悲しくて滑稽だ。この本には「昭和」が10編詰まっている。たまらなく愛おしい。
S**O
つげ義春の最後の作品群をおさめたコレクション。ストーリーが練りこまれていて個人的には一番おもしろかった
つげ義春コレクションでは一番後年の作品を集めたもの。1980年代半ばになるので、絵のタッチも劇画調のものもあり、またストーリーも前の作品群と比べればかなり練りこまれていて読み応えのあるものになっている。1960年代の終わり、ねじ式のころピークを迎えたつげ義春の人気は落ちてしまって、生活に困窮し、漫画をやめて古物商をやったりした頃の話がモチーフになった作品が収められていて、一部はシリーズのようなものになっている。こんなに、なにも起こらない、限りなく情けないような状況でシリーズ化しようとするのはある意味大変な苦渋であっただろうと思う。それでますます自分を追い詰め、情けなさのネガティブ・スパイラルへ落ち込んでいったのではないかと思う。「芸術作家」というレッテルが邪魔をして大衆作品に乗り切れないし、自分を安売りすることもできないジレンマが状況を悪化させていることも作品にでている。じっさいこれらの作品群の後、精神と体を病んでしまったらしい。でも不思議なことになぜか安らぎと、憧れみたいなものを思わせる。「石を売る」では最後に完全にプライドを捨てた姿が描かれるが、「虫けらとはとうちゃんみたいなものだ」という主人公の姿は解脱者のようで意味深いと思う。
ترست بايلوت
منذ يوم واحد
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